2019年11月22日 編集
1 矯正治療で問題となる痛みの種類
矯正治療には多少なりとも痛みが伴います。しかし装置の改良や治療技術の進歩により、痛みや違和感は大幅に軽減しているように感じます。
今回は痛みについて正しく理解し、必要以上に不安にならないようにしていただきたいと思います。
矯正治療の痛みは3つに分類できます。
1 歯が動き始める痛み
2 咬合痛(ものを咬んだ時に歯が痛い)
3 装置が粘膜にあたる違和感
1-1 歯が動き始める痛み
矯正装置で歯に力を加え始めた時点では、ほとんど痛みは感じません。「全然痛くないけど大丈夫でしょうか?」と不思議そうにする方もいます。
初期の痛みが発現するのは数時間後からで「歯が浮いたような感じ」「歯が少し締めつけられるような感じ」「痛痒いような感じ」などと表現されます。
痛みの強さや感じ方には個人差がありますが、一般的には「何もしてないときの歯の明らかな痛み=自発痛*」はわずかなものです。
*自発痛について
頭痛のように「何もしていないのにズキズキする痛み」を「自発痛」と言います。風邪、二日酔い、肩こりなど日常生活の中で一般的に「痛み」と言えばこの「自発痛」を指します。
1-2 咬合痛(ものを咬んだ時に歯が痛い)
「矯正治療中の痛み」の代表的なもので、「ものを咬んだときに痛い」「歯ブラシがぶつかったときに響く」「歯と歯を合わせると痛い」などと表現されます。
咬合痛のピークは3〜4日です。その後痛みは徐々に軽減し、1週間程度で治まります。治療ごとに同様の反応が起きますが、治療が進むほど痛みに慣れてくる傾向があります。
1-3 装置があたって痛い
矯正装置は舌、頬、口唇などの粘膜に直接触れるものなので、多少の違和感や粘膜の痛みは伴います。
表側矯正では「口唇の裏側や頬粘膜」が、舌側矯正では「舌」が擦れやすくなります。
また矯正力を加えるためのワイヤーやエラスティック、コイルなども違和感や痛みの原因になります。
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2 それぞれの痛みへの対処法
2-1 歯が動き始める痛み/咬合痛(ものを咬んだ時に歯が痛い)への対処法
2-1-1 治療上の配慮
①ワイヤーの選択
歯が正しく動くためには、歯根膜の血流を阻害しない「弱く持続的な力」を加える必要があります。強すぎる力では正常な骨代謝が阻害されてしまいます。
そのため、矯正力の元であるワイヤーの選択は重要です。
当院ではカッパー・ナイタイ・ワイヤー*1やTMA*2ワイヤーなどを用いて、矯正力が適正に保たれるようコントロールしています。
*1カッパー・ナイタイ・ワイヤー
カッパー・ナイタイ・ワイヤーの主成分はニッケル、チタン、銅、クロムです。従来のニッケル・チタンに銅を加えることでワイヤーの温度による再活性特性が高まりました。当院では変態温度35℃のものを採用しており、ワイヤーが口腔内温度に達した際に中等度の力を発揮します。
*2 TMAワイヤー
ステンレス・スティールとニッケル・チタンの中間の硬さのワイヤーです。TMAは柔軟性とスプリングバック特性に優れています。
②ブラケッットの選択
「生体に優しい、非常に弱く持続的な力で歯を動かす」ことが矯正歯科における最近の考えです。そしてそれを実現するためローフォース・ローフリクション型矯正歯科装置(ワイヤーとブラケット間の摩擦が少なく、弱い矯正力を使える)が開発されました。
当院では表側矯正ではデーモンシステム(ORMCO)、舌側矯正ではClippy L(TOMY)、ALIAS(ORMCO)などを採用しています。
→表側矯正/ローフォース・ローフリクション型矯正歯科装置(デーモンシステム)の特徴
→見えない裏側からの矯正/ブラケットの種類
2-1-2 食事の注意
「咬合痛」がある時期には、「硬いもの」や「咬み切るもの」が苦手になります。
痛みが軽減するまでの数日は「柔らかくて・消化が良くて・栄養のある食事」を摂るようにして下さい。詳しくは関連記事を御覧ください。
痛みと食事
2-1-3 鎮痛剤の使用
矯正治療で発現する痛みは、矯正力に対する正常な炎症反応により生じるものです。通常1週間程度で痛みは軽減しますが、辛い時には鎮痛剤を飲んでいただいて構いません。
その際「炎症反応(=骨代謝による歯の移動)を妨げることなく鎮痛効果があるもの」が推奨されます。
当院では鎮痛剤の処方は行っておりませんが、アセトアミノフェン(カロナール)は鎮痛・解熱作用を有しながら抗炎症作用の弱い薬*です。
*薬に関しては内科的問題やアレルギーに配慮する必要があるため、必要な方はご相談ください。ロキソニンやボルタレンなどのNSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)はPGE2の合成抑制によって強い鎮痛・解熱効果がありますが、抗炎症作用もあるため歯の動きを妨げる可能性があるようです。
2-2 装置が粘膜にあたる違和感への対処法
2-2-1 装置の選択
矯正装置(ブラケット)はできるだけ小型・薄型化されたものを採用しています。またブラケットとワイヤーの固定方法は従来の結紮線によるものではなく、トラブルの少ないセルフライゲーションタイプ*のものを採用しています。
*セルフライゲーションについて
従来は“結紮線”という細いワイヤーでブラケットとメインワイヤーを“結びつけて”いました。結紮線の断端は食事や歯磨きで起き上がり、粘膜に刺さることがありました。一方セルフライゲーションタイプではブラケット自体にシャッターが組み込まれていて、結紮線を使わずにワイヤーをスロット(ワイヤーを通す溝)に固定することができます。
→ローフォース・ローフリクション型矯正歯科装置(デーモンシステム)ブラケットの特徴
2-2-2 保護剤の活用
装置やワイヤーが粘膜にあたる部分をカバーする「保護剤」をお渡しします。詳しくは関連記事を御覧ください。
→舌側矯正の痛みへの対処法1〜装置が当たって痛い
(文・監修/医療法人社団Synchronize SYNC横浜元町矯正歯科 小玉晃平)
bonumopus/Shutterstock.com
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