精密検査
矯正治療は「正しい診断と明確な治療計画」に基づいて行われます。
そして、それらを決定するための「判断材料と根拠」になるのが精密検査です。
ここでは、矯正治療のための精密検査の内容と、各資料から「何を読み取っているのか」ついて解説します。
*初診カウンセリングでは口腔内写真による「見える範囲での説明」を行います。
一方、精密検査ではレントゲンやCTなど「骨の内部の情報」が追加されるため、より正確で安全な治療計画を立てることができます。
1. 顔面写真
当院では、5枚セットを基本とし必要に応じて追加撮影をします。(図1)
顔面写真では以下の項目について精査します。
図1 顔面写真
❶ 正面(口唇閉鎖)
①顔面の対称性
②口腔周囲筋の状態
③顔の輪郭
④目-鼻-口-顎にかけての垂直的なバランス
❷ 正面スマイル(フル)
❸ 正面スマイル(ナチュラル)
①顔面正中と上下前歯正中のずれ
②咬合平面の傾斜
③スマイル時の歯や歯茎の見え方
- ナチュラル・スマイル時に”歯茎が過剰に見える(3mm以上)”状態を「ガミー・スマイル」と言います。
④スマイルライン(図2)
- 口角を上げてスマイルした際に、上顎前歯の切端を結んだラインを「スマイルライン」と言います。
スマイルラインは”下口唇のラインに添ったカーブを描くこと”が理想とされます。
図2 スマイルの評価
❹ 斜め45度
①口腔周囲筋の状態
②下顎の水平的・垂直的位置
③より立体的な顔貌の把握(正面、側面データの補正)
❺ 側面(図3)
1)側貌(プロファイル)の水平的バランス
Eラインを基準とした側貌(プロファイル)の水平的分類
①コンベックス・タイプ(Convex type)
上顎前突(出っ歯)や上下顎前突(バイマックス)で見られるような、
上下の口唇がEラインより突出しているタイプ。
②ストレート・タイプ(Straight type)
上下の口唇がEライン付近にある理想的なタイプ。
③コンケーブ・タイプ(Concave type)
下顎前突(受け口)で見られるような、上下の口唇がEラインより内側にあるタイプ。
図3 側貌(プロファイル)の分類
2)側貌(プロファイル)の垂直的バランス
下顎下縁平面(マンディブルプレーン)を基準とした側貌(プロファイル)の垂直的分類
①ハイアングル(High angle)=ドリコ・フェイシャル、長顔型
- 顎の下のライン(下顎下縁平面)が下方に傾斜している。
顎の先端や顎角(えら)の輪郭がわかりにくい。
面長で、横幅が狭く、奥行きがない顔立ち。
②アベレージアングル(Average angle)=メジオ・フェイシャル、中頭型
- ハイアングルとローアングルの中間的な特徴を有するバランスの良い側貌(プロファイル)
③ローアングル(Low angle)=ブレーキー・フェイシャル、短頭型
- 顎の下のライン(下顎下縁平面)が水平に近い。
顎の先端や顎角(えら)の輪郭がはっきりしている四角い顔立ち。
縦に短く、横幅が広く、奥行きがある顔立ち。
3)口腔周囲筋の状態
4)Eライン、鼻唇角
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2. 口腔内写真
当院では、7枚セットを基本とし必要に応じて追加撮影をします。(図4)
*口角鈎(アングルワイダー)と口腔内ミラーを用いて、歯列全体を撮影します。
❶ 正面
❷ オーバー・ジェット
上下顎前歯の水平的な距離(+2〜3mmが適正)
❸ オーバー・バイト
上下顎前歯の垂直的な距離(+2〜3mmが適正)
❹ 左側面
❺ 右側面
❻ 上顎咬合面
❼ 下顎咬合面
口腔内写真では「歯並び・咬み合わせ」だけでなく、口腔内の様々な情報を得ることができます。
虫歯、歯の咬耗、エナメルクラック、歯肉炎、歯周病、リセッション、口腔病変、舌小帯、補綴物の状態、骨隆起etc.
図4 口腔内写真
3. 口腔内スキャン(光学印象)
口腔内スキャナー(iTeroエレメント)で歯並び・咬み合わせの状態をスキャンします。スキャンデータは3Dで閲覧できます。(図5)
また、咬合接触面(歯がどこで咬んでいるか)の記録も可能で、初診時だけでなく治療途中の咬合の確認にも有効です。
*スキャンデータはクラウド上に保存され、技工所と共有することで迅速な矯正装置の作製が可能になりました。
図5 3Dスキャンデータ
4. レントゲン
矯正治療の診断を決定するためには、歯だけでなく”骨格の情報を得ること”が必要です。
そのため精密検査では数種類のレントゲンを撮影します。(図6)
頭部X線企画写真(セファログラム)は矯正歯科の診断で必須の資料です。
❶ セファロ正面
骨格の偏位(左右の歪み)、顔面正中と歯列正中のずれ、咬合平面の傾斜など”対称性”について調べます。
❷ セファロ側面
上下顎骨の水平的(前後的)・垂直的なバランス、歯の突出量や植立角度などについて調べます。
頭部X線企画写真(セファログラム)は「一定規格のもとで撮影する(イヤーロッドで頭部固定し撮影)」ため、矯正歯科の診断に必要なだけでなく「術前術後の変化を確認」することができます。
①歯が動いた方向と距離
②咬合の変化に伴う顎位(下顎の咬む位置)の変化
③Eラインや鼻唇角の変化
④顎骨の成長発育の経過
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❸ パノラマ
垂直的には眼窩(目が入っている骨)下縁付近からオトガイ下まで、水平的には左右の顎関節を含む範囲までを撮影します。
パノラマからは1枚で下記のような、広範囲の情報が得られます。
①歯の本数
②親知らずの有無と埋伏状態
③虫歯、根尖病巣、歯周病の有無や状態
④歯の修復状態(神経の有無や補綴物の適合)
⑤過剰歯、埋伏歯の有無と埋伏状態
⑥上顎洞と歯根の位置関係、上顎洞の炎症の有無
⑦顎関節の状態
⑧顎骨内の病変(歯牙腫、嚢胞、唾石など)
❹ デンタル
デンタル1枚で撮影できる範囲は3〜4歯ですが、より鮮明に細部の撮影が可能です。
パノラマは撮影方法の特性上、前歯付近が不明瞭になりがちなため、前歯の虫歯や歯根、歯根膜などの情報はデンタルが有効です。
図6 レントゲン
❺ CT(図7)
CTはコンピュータ断層撮影(Computed Tomography)の略称です。
平面的なレントゲンと異なり、3次元的な情報を得ることができます。
*歯科用CTは医科用と比べて「被曝量が大幅に少なく撮影時間が短い」のが特徴です。
矯正治療で安全に歯を動かすためには「歯根が海綿骨*内をスムーズに移動する」ことが大切です。
そのためには、歯根が硬い皮質骨や切歯管、上顎洞、隣在歯根など移動の妨げになる構造物に”ぶつかっていないか”を確認する必要があります。
それらを、確実に診断するためにはCTが必須になるのです。
*顎骨を構成している骨は外側の硬い骨(皮質骨)とその内部の柔らかい骨(海綿骨)に分類されます。
CTの活用で・・
「より確実+よりシビアな診断」=「より安全+より確実な治療計画」
診断と治療計画 icon-angle-right
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図7 CT
5. 口腔内診査
口腔内写真と同様の項目を診査します。(図8)
加えて写真では判断できない項目について確認します。
1.顎関節
開閉口時の下顎の動きや、顎関節の状態(クリック音、痛み、開きにくさ)
関節付近の筋肉の緊張状態
2.舌運動および舌小帯の付着
嚥下時の舌の位置は歯並びに大きく影響します。
「舌突出癖(タング・スラスト)」は開咬、「低位舌」は上顎歯列の狭窄や反対咬合のリスクを高めます。
また、舌の裏側から下顎に付着しているスジを「舌小帯」と言います。
舌小帯の短縮や付着部位の異常は、舌運動を制限し歯並びにも大きく影響します。
*舌小帯が極端に短い舌小帯短縮症では、外科的な切除が必要になる場合もあります。
3.呼吸状態と口唇力測定
正常な鼻呼吸ができているかを確認します。口呼吸が常態化すると、口唇閉鎖力が低下し”前歯の突出”のリスクを高めます。
歯列の維持には、正常な鼻呼吸と口唇閉鎖が必須です。
口唇力は口唇力測定器で計測します。
4.その他口腔病変
口腔内診査の中で様々な口腔病変を確認することがあります。
必要に応じて連携口腔外科専門医をご紹介します。
図8 口腔内診査