診断と治療計画
精密検査で得られたデータをもとに「診断と治療計画」を決定します。
ここでは、代表的な資料である「側面頭部X線規格写真(側面セファログラム)」
「3DCT」「3Dスキャンデータ」から”矯正歯科専門医はどのようなことを読み取っているのか”を少しだけご紹介します。
1. 側面頭部X線規格写真(側面セファログラム)
側面セファログラムを専門のソフトウェア(CephaloMetrics AtoZ®︎ )で分析します(=セファロ分析)。
図1のように多くの計測点を設定することで、精密な計測が行われます。
セファロ分析では「骨格と歯それぞれの問題点を診断」することができます。
図1 セファロ分析で用いる計測点
◾️ 骨の位置の分析
1) 上顎骨と下顎骨の水平的(前後的)な位置関係
代表的なものにANBという角度を計測する方法があります。(図2)
また上下顎骨の水平的(前後的)な位置のアンバランスは、簡素化すると図3のようなパタンがあります。
このように同じように見える症状でも、セファロ分析によって原因が異なることがわかり
ます。
図2 ANBについて
図3 上顎骨と下顎骨の前後的な位置関係
2) 基準線に対する顎関節を中心とした下顎骨の開き方(垂直方向の分析)
代表的なものにFMAという角度を計測する方法があります。(図4)
FMA値により、顔立ちは3つのパタンに分類されます。
ハイ・アングル(ドリコ・フェイシャル・パタン、長頭型)
FMA≧30°
特徴:面長の顔立ち。咬合力が弱い。骨が細く骨密度が低い。顎関節が華奢。
ロー・アングル(ブレーキー・フェイシャル・パタン、短頭型)
FMA≦20°
特徴:エラが張った顔立ち。咬合力が強い。顎の骨が太く骨密度が高い。
アベレージ・アングル(メジオ・アングル・パタン、中頭型)
FMA 20°〜30°
特徴:平均的な顔立ち。平均的な咬合力と骨密度。
顔立ちのパタンは咬合力や骨密度と相関があり、治療計画(歯の動かし方)を決定する上で重要な項目です。
図4 FMA
◾️ 歯の位置や角度の分析
1) 基準線に対する上下前歯の水平的(前後的)な位置を調べます。
代表的なものにU1 to A-Pog.、 L1 to A-Pog. という距離を計測する方法があります。(図5)
2) 基準線に対する上下前歯の植立角度を調べます。
U1 to SN、 IMPA(L1 to MP)、FMIA という角度を計測する方法があります。(図5)
前歯の位置を適切に決めることは、治療の安定や審美性において特に重要です。
歯列の凸凹の量だけでなく、「前歯の突出度」「前歯の骨に対する植立角度」などを総合的に判断して、抜歯・非抜歯を決定します。
また前歯の位置を変えることで、口元のライン(イー・ラインや、ナゾラビアル・アングル)が変化します。
歯並びを整える際には「口元の審美性」も考慮する必要があります。
ブログ「イーライン」 icon-angle-right
ブログ「横顔のライン」 icon-angle-right
このように、側面頭部X線規格写真(側面セファログラム)の分析は矯正歯科の診断では必須項目です。
また、側面頭部X線規格写真(側面セファログラム)は治療経過・結果の評価(目標通りの位置に歯が動いているか)や顎骨の成長発育の確認にも用いられます。
図5 歯の位置や角度の分析
2. 3DCT
3DCTを活用することで矯正歯科治療の診断(治療の予測実現生)は格段に向上しました。
側面頭部X線規格写真(側面セファログラム)を分析し、治療後の上下の前歯の位置を決めます。
3DCTでは治療計画通りに歯を動かせるのかを確認します。
切歯管や上顎洞、皮質骨の厚さや薄さ、三次元的な骨量などを確認し、歯根が無理なく骨の中で安定を得られるかを確認します。
1) 切歯管について(図6)
上顎前歯を後方移動する際に「切歯管と歯根までの距離」を考慮する必要があります。
切歯管(鼻口蓋管)は鼻腔から口蓋に繋がる管で、神経(鼻口蓋神経)や血管(蝶口蓋動脈の吻合枝)が走行しており、比較的硬い骨で形成されています。そのため歯根が切歯管に強く接触すると、歯根吸収を生じるリスクがあります。
リスク「歯根吸収」 icon-angle-right
前歯の後方移動の際には、移動量や移動様式(歯体移動や傾斜移動など)を考慮する必要があります。
図6 切歯管について
2) 骨隆起について(図7)
骨隆起(下顎隆起)は、主に下顎の内側に見られます。
歯ぎしりや食いしばりなどの過剰な力から歯を守るために周囲のこつが過剰に発達している状態です。
骨隆起があると歯の移動が妨げられる可能性があり、無理に動かすと歯根吸収を生じる。
図7 骨隆起
3) 歯槽突起の厚みと形態
歯槽突起は歯が並んでいる部分の骨です。CTで歯槽突起の唇舌的な厚さや形態を確認します。骨が薄いもしくは歯槽突起が著しく前方傾斜している場合には、歯の後方移動量が制限されます。
ブログ「抜歯治療で特に注意する項目」 icon-angle-right
3. 3Dスキャンデータ
口腔内スキャナー(iTero®︎)で採得した3Dデータを用い、歯並びの状態を全ての方向から確認します。
また歯の咬合接触状態(どの歯がどの程度の面積で咬めているのか)も、色分け表示で確認できます。
これ以外にも、問診と口腔内診査、口腔内写真、顔面写真、パノラマレントゲン、デンタルレントゲン、口唇力測定などのデータをもとに、診断と治療計画が立てられます。